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お知らせ

特別寄稿

成熟社会における日本の選択 -価値観の大転換期-
令和6年12月1日
同窓会長 大田 弘(魚高23回生)
<世界に先駆けた日本の少子高齢化>

世界に先駆けた日本の少子高齢化時代の到来は「国難」だといいます。労働人口(または生産年齢人口)の減少が、日本の生産力、経済力を低下させ、これまでのような「豊かな日本」の維持・発展が危うくなる、待ったなしの状況に直面しているということのようです。
しかし、これは突然、訪れたわけではありません。40年前には出生率はすでに2.0を下回っており、低下の一途を辿っていました。当時、予測された通りの人口・少子高齢化率になったに過ぎません。

<世界人口の推移>

 世界人口は1800年前後の産業革命を機に激増し、2050年には約100億人に達すると見られています。

世界の人口推移
(図―1 世界の人口推移)
<日本の人口推移>

 日本の人口推移を振り返ってみましょう(図−2)。戦国時代を経て、“平和な”江戸時代に入ると150年間で人口が約1,200万人から約3,100万人に急増しました。
社会が安定化し、生産活動(主に農業)に専念できるようになり、また、治山治水、農業用水の整備が進んだことから、収穫高(経済力)が増大したことが大きな要因でした。
江戸中期になると、当時の技術で開墾可能な土地がほとんどなくなり、世界的な気候変動(小氷河期)も加わって、収穫高、人口とも頭打ちの状態となりました。

江戸、大坂といった新たに誕生した巨大都市は、高い未婚率と衛生状態の悪さから人口のマイナス要因となったといいます。「多産多死」は多少解消されたものの、江戸や一部の大都市を除いて、依然として地方民の生活は困窮を極め、天明の大飢饉(1782~88年)では約100万人が亡くなったとされています。
3,000万人、これが江戸文明での日本の“定員”だったのです。

日本の人口推移
(図―2 日本の人口推移)
徹底した開墾(千枚田):江戸時代初期)
(写真-1 徹底した開墾(千枚田):江戸時代初期)
<魔法(科学技術)による社会構造の大転換>

 これを一変させたのが「明治開国」「近代国家の建設」である。つまり、農業以外の工業化が進み、1次エネルギーが生物(薪、炭、牛馬、人力)や自然力(水、風)に代わって、水力(電力)、石炭、石油などに移行することで、新たな経済成長と人口増加が再び始まったのです。農業社会から工業社会への大転換です。

社会構造の変化
(図―3 社会構造の変化)

 そして、第二次世界大戦後、日本は東洋の奇跡と称される速度で経済大国になりました。所得の増大、衛生環境の改善、医療技術の進歩などにより、平均寿命は大幅に伸び、「多産多死」から「多産少死」、そして「少産少死」に移りました。
1956年には、人口は9,000万人を超え、「厚生白書」では、急激な人口増による「過剰人口」にどのように対応していくのか、ということを政策課題として取り上げています。僅か70年前のことです。
そして、人口は江戸文明での定員の4倍、1億2千万人に達しました。

昨年より今年、今日よりも明日のさらなる経済成長による豊かさの享受と幸せな老後を信じて、ただひたすらに働き、わずか150年間で到達したのが今日の「成熟社会」です。

人類学者 梅棹忠夫によれば、固有の文明システムの人口“支持力”が限界に達すると、経済と人口の量的な拡大が困難だといいます。
古代においては人も他の動物と同様に生態系の生産力によって人口が規制されていましたが、科学技術の力によって作り出された魔法の現代産業社会が人類史上初の人口爆発、いわゆる“異常繁殖”を生じさせたのです。

<魔法(科学技術)の副作用>

 しかし、その魔法(科学技術)の副作用として発生した地球環境、南北格差、民族紛争問題などの深刻化は、産業社会での人口“支持力が限界”に近づいていると見ることができます。この折り合いをつけるのはエゴが渦巻くグローバル社会では容易でないことは、明らかです。
一方、政府は前述の「国難」を克服すべく、多くの有識者の知恵も結集し、「一億総活躍社会」「ダイバーシティ(多様性)」「地方創生」「働き方改革」「人づくり革命」「生産性革命」、「人生100年時代」など矢継ぎに掲げ、2017年には、冗談にしては度が過ぎる「プレミアムフライデー」(略称:プレ金/金曜日は早くに退社して楽しい時間を過ごす)なども呼びかけられました。まさに“国難”ですが、プレ金の公式サイトは2023年6月に人知れず閉鎖されました。

<少子高齢化は”マイナス”か?>

 少子高齢化社会は経済成長や生活水準などに総じてマイナスの影響を与えるとの見方が一般的です。一方で、環境負荷の低減やゆとりある生活空間の形成などプラスの効果があるとの指摘もあります。
(コロナ禍により経済活動を大幅に抑制したインドの首都・ニューデリーでは30年ぶりにヒマラヤが観えたと云う)
成熟社会における日本の次なる選択は、「経済成長」への再挑戦しかないのでしょうか?目指す成長の先に待っているこの国のかたちは、ミニ米国、ミニ中国なのでしょうか?

「経済」の語源は「(けいせいさいみん)」にあるといいます。「経世」は世の中をよく治めること。「済民」は民の難儀を救済することです。少子高齢化~成熟社会(財政難)・人手不足~働き方改革~生産性向上~経済再成長のシナリオ、つまり成長“主義”は果たして持続(共存)可能なのか?広く民の難儀を救うのか?これまでの発展の持続、延長線上にこの国のかたちを描いて良いのだろうか?という素朴な疑問にたどり着いてしまいます。

現代社会で起きているさまざまな現象、行き過ぎた資本主義・グローバリズムの副作用、戦後の混乱期ですら起きなかった悪質犯罪の増加、幸福への閉塞感を見るにつけ、“足るを知る”“額に汗して働くことが大切”の日本人が今後目指すべき発展、成長とは何か、幸せの物差しをどうするか?
一人ひとりが立ち止まって考える大転換期(グレートリセット)を迎えていると思えてなりません。

以  上